共謀罪法の施行に反対し、廃止を求める声明
2017年7月12日
青年法律家協会岡山支部
支部長 山本勝敏
本年6月15日、参議院での委員会採決を省略するという極めて異例な手続による強行採決の結果、共謀罪を内容とする「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」(共謀罪法案)が可決成立し、昨日、同法が施行された。
共謀罪法案は、これまで3度に渡り国会に提出されてきたが、プライバシーの権利(憲法13条)、内心の自由(憲法19条)、表現の自由(憲法21条)、法定手続の保障(憲法31条)に違反すること、行為主義に立つわが国刑法の基本原則に反することなどから、国民による大きな反対の声が上がり、いずれも廃案となった。
政府は、今回の共謀罪法案の目的を、国際組織犯罪防止条約の批准及び同条約と関連づけてテロ対策のためと答弁してきた。しかし、国際組織犯罪防止条約34条及び国連立法ガイド51項によれば、わが国国内法の基本原則、つまり、行為主義に従って必要な立法上の措置をとればよいとされており、共謀罪法案を創設しなくても条約批准は可能である。国際組織犯罪防止条約がテロ対策を目的とするものではないことは、国連「立法ガイド」執筆者ニコス・バッサス氏が明言しているところである。政府による共謀罪法案の根拠は国会審議時においてすでに完全に破綻していたのである。
また、政府は、法案説明において、今回の共謀罪法案が成立しても「一般の方々が適用対象となることはない」と強弁してきた。しかし、共謀罪法案6条の2にいう「組織的犯罪集団」には、国際組織犯罪防止条約2条「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得る」目的、あるいは、同条約3条「性質上国際的」な犯罪という限定が抜け落ちており、共謀罪法案は、条約とは異なり、市民団体の活動をその対象に取り込むことができる構造となっている。例えば、マンション建築反対運動であれば、①業者に説明会開催を求める、②説明会の場で誠意ある納得できる説明を求める、③建設に反対するビラを配り市民の理解を求める、④資材の搬入・建設工事に反対するため「工事反対」とシュプレヒコールを行うなどがその内容となる。ところで、①は共謀罪法案別表第三に掲げる組織的強要罪に、②は組織的逮捕及び監禁罪に、③は組織的信用毀損罪に、④は組織的威力業務妨害罪にそれぞれ外形的に該当し得るのであって、マンション建築反対運動のために集合した市民をこれら犯罪目的を持った「組織的犯罪集団」と認定することは法文上可能である。
以上に述べた以外にも、今回の共謀罪法案は、①「組織的犯罪集団」だけでなく、「計画」「準備行為」いずれもその定義が不明確であり、これらの判断は捜査機関次第となるため、市民には何が犯罪とされるか分からず、内心の自由、表現の自由に対する著しい萎縮効果をもたらすとともに、法的明確性の原則に明らかに違反する。②277種類もの犯罪について法益侵害の危険のない計画(共謀)を処罰するものであり、わが国刑法の行為主義原則を根本から否定する。③「計画」(共謀)、「準備行為」の存在及び範囲を立証するため捜査機関による事前監視が不可欠となり、捜査手法として盗聴、密告、GPS、潜入捜査などが必然化する。つまり、共謀罪法案は、憲法によって保障されたプライバシーの権利、内心の自由、表現の自由、法定手続の保障を明らかに侵害し、わが国刑法の基本原則を否定する内容の法案である。それゆえ、学者や弁護士、多くの市民から反対の声が上がったにもかかわらず、政権与党及び日本維新の会はそのような声に耳を傾けることなく、参議院法務委員会の採決を省略してまで強行採決に踏み切ったものであり、現在の国会は代表民主制の機能を果たしていないと言わざるを得ない。
このようにして成立した共謀罪法は、結局、一般市民を含め、我々が自由に考え、表現し、行動する自由を警察権力が監視することにお墨付きを与えるものに他ならず、権力による監視社会の始まりを意味する。そして、監視社会の行く末は、時の権力者に物言えぬ国家であり、自由なき社会である。
我々、青年法律家協会岡山支部は、国民の自由と人権を侵害する共謀罪法の成立と施行に強く反対し、速やかな廃止を求める。