安保法制11法案の違憲性、同法案が戦争立法であること(2015.5.14 山本 勝敏会員)
はじめに
平成27年5月12日、自民、公明両党は、今月11日、新しい安全保障法制を構成する11法案(武力攻撃事態法改正案、重要影響事態法案、国際平和支援法案、PKO協力法改正案など)の内容で正式合意し、今国会へ提出して7月下旬の成立を目指すと報道された。
昨年7月1日安倍内閣閣議決定は違憲である以上、安保法制11法案も憲法違反であること
新しい安全保障法制を構成する11法案は、昨年7月1日安倍内閣会議決定を受けて、日本国憲法第9条のもとで、専守防衛の範囲内で存立を認められてきた自衛隊に対して海外での武力行使の途を開く立法であり、この間述べたように(本コラム「平成26年7月1日安倍閣議決定は、なぜ従来の政府見解を逸脱し、憲法第9条に違反するのか」「平成26年7月1日安倍閣議決定は、憲法法理論上、なぜ違憲なのか」)、安倍閣議決定が違憲である以上、これら法案も憲法違反である。
日本国憲法における平和主義(平和的生存権、戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認)のもとでは、これまでの政府見解でも自衛隊の活動はわが国防衛(専守防衛)に制限され、したがって、日米安保条約第5条(有事条項)、同第6条(極東条項)においても、専守防衛を前提とした防衛協力が行われてきた。そのため、自衛隊による武力行使はわが国に対する武力攻撃を前提とし(有事条項)、米軍がわが国の平和と安全に対する脅威を排除する行動をとる場合であっても、自衛隊が米軍を後方支援できる地域は、極東、せいぜいわが国周辺地域に限定し、その場合でも、米軍の武力行使と一体化しないように、非戦闘地域において米軍艦船に給油するなどの行為に制限してきた。自民、公明両党が今回正式合意した安保法制11法案は、自衛隊の活動を、わが国防衛(専守防衛)から米軍を中心とする他国軍隊とともに海外で武力行使する方向に180度転換するものであり、安倍政権のいう積極的平和主義とは、戦後70年間わが国が維持してきた海外で戦争しない専守防衛の国という国家像を否定し、必要に応じて海外で戦争する国家に変質させるものであり、わが国が戦後築いてきた国際社会における平和国家としての信用を失墜させる暴挙である。
以下では、武力攻撃事態法改正案、重要影響事態法案、国際平和支援法案について、その実態が自衛隊を海外での他国の戦争に参加させるための戦争立法であることを明らかにする。
武力攻撃事態法改正案について
平成15年6月に施行された武力攻撃事態法は、わが国に対する武力攻撃が発生し、あるいは事態が緊迫して武力攻撃が予測される事態において、国、地方公共団体等の責務、国民の協力その他基本事項を定めて、武力攻撃事態へ対処しようとしたものである。わが国に対する武力攻撃を前提としており、個別的自衛権行使、専守防衛の立場からの立法である。
これに対して武力攻撃事態法改正案は、安倍閣議決定により集団的自衛権行使を容認した結果、わが国に対する武力攻撃のほかに、外国に対する武力攻撃に対してわが国が集団的自衛権行使を行う場合を存立危機事態と定義して加え、これについても自衛隊による反撃を認めるものである。
安倍首相は、中東・ペルシャ湾のホルムズ海峡で他国が戦争中に、機雷が蒔かれ、わが国に原油を運ぶ船が通れなくなって国民生活に深刻な影響が及ぶ場合も、「わが国の存立が脅かされ、国民の声明、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」にあたると述べており、わが国に対する武力攻撃が発生せず、発生する緊迫した事態でもないにも関わらず、自衛隊による武力攻撃が可能となる。
つまり、わが国に対する外部からの武力攻撃を排除する限度で武力行使し、他国には攻め入らないという専守防衛の範囲を飛び越えて、自衛隊の海外派兵、海外での武力行使を認める立法であり、戦前、軍国主義のもとで中国、朝鮮、アジア、太平洋地域諸国を侵略植民地化した過去を反省し、諸国民の正義と公平を信頼して戦争を放棄し、平和国家の道を選択した日本国憲法の精神と相容れないことが明らかである。
重要影響事態法案について
平成11年8月に施行された周辺事態法は、日米安保条約第6条極東条項を拡張した立法である。極東条項は、わが国の安全を維持するためには、極東における国際の平和及び安全の維持が前提となることから、米国軍隊の日本駐留、基地使用を認めたものである。周辺事態法は、北朝鮮核開発疑惑に端を発して、米国軍隊が北朝鮮と交戦する場合に備えて、自衛隊が米軍を物資や人員輸送などで後方支援するために立法されたものであるが、
わが国周辺の地域における事態に限定し、わが国に対する武力攻撃が発生していない事態に対処するためものであることから、自衛隊による武力の威嚇又は武力の行使は認められず、米軍の武力行使と一体化しないように米軍などへの弾薬の提供、戦闘に向けて発進準備中の他国軍機への給油などは認めていない。
これに対して重要影響事態法案は、「わが国周辺の地域」という限定を削除し、周辺事態法制定時、当時の小渕首相が国会で「中東とかインドネシアとか、ましてや地球の裏側というようなことは考えられない」と答弁していたにも関わらず、これら地域にまで自衛隊の海外派兵を認め、また、極東条項では米軍の活動を前提としているにも関わらず、「米軍等」として米国以外の国の軍隊への後方支援を可能とし、さらに、米軍の武力行使と一体化しないように周辺事態法では認められていなかった米軍などへの弾薬の提供、戦闘に向けて発進準備中の他国軍機への給油なども可能にした。
周辺事態法は、日米安保条約における極東条項に関わるものであり、あくまでわが国周辺地域におけるわが国に対する直接の武力攻撃に至るおそれを前提としたうえで、自衛隊の活動が米軍の武力行使と一体化しないように弾薬の提供等を禁じ、専守防衛の範囲内における海外派兵の限界を画すものであったが、重要影響事態法案は、周辺事態法が定めたこれら限定を外し、「わが国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」の名の下に、米軍が行う海外軍事活動を後方支援するものであって、その本質は専守防衛の範囲を逸脱して、米国が行う戦争において自衛隊が武力行使と一体となった後方支援を行うものに他ならない。
国際平和支援法案について
わが国は、平成13年、国際的なテロリズムの防止、根絶のため、米軍ほか諸外国軍隊が対アフガニスタン戦争を行うにあたり、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、実施期間中戦闘行為が行われることがないと認められる地域において、自衛隊が武力による威嚇又は武力の行使にあたらない補給支援活動を行うことを内容とするテロ対策特別措置法を特別立法として国会に提出して法制化し、また、平成15年、米国による対イラク戦争後の、イラク国家の再建を通じた国際社会の平和及び安全確保のため、前記同様の条件のもとで、自衛隊が人道復興支援活動、安全確保支援活動を行うことを内容とするイラク特別措置法を特別立法として同様に法制化した。
これら立法は、わが国防衛と直接関わらない国際社会の平和や安全のために、海外で活動する他国軍の活動を支援する目的で自衛隊を派兵するものであり、日本国憲法、日米安保条約いずれもが予定しない活動であることから、特に例外として期限付きで立法化されたものである。従って、個々の状況に応じて特別立法を作り国会審議を経た上で、わが国防衛と直接関わらない国際社会の平和や安全のために自衛隊を海外派兵してもよいか否かを、日本国憲法の平和主義を踏まえて判断する構造になっている。
これに対して国際平和支援法案は、わが国防衛と直接に関わらない事態に対する自衛隊の海外派兵を、その都度特別立法を作って国会審議するのではなく、原則として認める法案であり、この点において既に専守防衛の枠組みを外れている。その内容においても、現に戦闘行為が行われていなければ、実施期間中戦闘行為が行われることが認められる地域であっても、自衛隊を派遣して協力支援活動を行わせることができ、また、自衛隊の協力支援活動には、他国軍の武力行使と一体化しないようにこれまでは認められていなかった弾薬の提供、戦闘に向けて発進準備中の他国軍機への給油なども可能にした。さらに、協力支援活動等について国会の承認を要件としているが、衆議院、参議院、それぞれ7日以内に議決することに努めなければならないとされており、十分な審議が行われる保証はない。
テロ対策特別措置法、イラク特別措置法いずれにしても、自衛隊はわが国防衛(専守防衛)のための組織であることから、これと直接には関わらない海外派兵については慎重を期すために特別立法による国会審議を経て憲法適合性を判断していたが、国際平和支援法案は、わが国防衛と直接関わらない自衛隊の海外派兵を原則とするものであり、自衛隊をわが国防衛(専守防衛)のための組織から海外で活動できる組織に変質させるものである。法案の内容では、派兵の範囲は戦闘行為が行われることが認められる地域にまで広がり、協力支援内容も他国軍への弾薬の提供など、これまで武力行使と一体化するとして禁止されていた行為にまで拡張されている。これらを総合すると、国際平和支援法案の本質は、専守防衛の範囲を逸脱して、米国を中心とする他国軍が行う戦争において自衛隊が武力行使と一体となった後方支援を行うものに他ならない。
まとめ
今回、自民、公明両党が合意した安保法制11法案は、戦後、わが国が維持してきた専守防衛に徹した平和主義を放棄し、海外で戦争をする国へと国の進路を180度転換するものであり、日本国憲法の基本原理である平和主義に明らかに反しており、これを許すとすればわが国は再び軍事国家に逆戻りするという大きな過ちを繰り返すこととなる。