残業代ゼロ法案のおそろしさ(2015.4.11 岡邑 祐樹会員)
1 「残業代ゼロ法案」閣議決定
2015年4月3日に労働基準法の改正法案いわゆる「残業代ゼロ法案」が閣議決定されました。この法案をごく簡単に言うと,一定の条件を満たせば,時間外労働をしても,割増賃金を支払わなくても良い,というものです。
近年,日本語であるKARO-SHI(過労死)が国際的に通用するほど,日本の過労死問題は重大です。過労死問題の根本的な問題は,長期間の時間外労働にあることは間違いありません。この法案によって,長時間の時間外労働が増え,過労死につながることが懸念されます。
2 成果主義の誤解
ところが,マスコミでは,過労死につながる長時間時間外労働の問題についてほとんど指摘することなく,むしろ,「成果主義」になって,がんばればがんばるほど所得が増えるとして歓迎するような報道すらあります。
ところが,この法案には,「成果が上がれば所得が増える」という,規定は一切ありません。マスコミの「成果主義の採用」という表現はごまかしでしかありません。
3 法案は否決すべき
基準を満たせば時間外労働について残業代を支払わなくても良いという規定は,現行法でも裁量労働制や管理監督者の規定によってカバーできます。(ただ,これらの制度にも問題があり,たとえば,日本マクドナルド株式会社は,店長に過ぎない従業員を管理監督者だとして残業代を支払わなかったところ,裁判で主張が認められず敗訴し,500万円ほどの残業代を支払う羽目になりました。)
これ以上,残業代を支払わなくてよいとする規定を設ける必要はありません。
4 労働は目的でなく手段
労働は,決してそれ自体が目的でなく,人間が人間として生きるための手段に過ぎません。もっとも,仕事に生き甲斐をもって働くことはすばらしいことですが,それ自体が人生の目的ではありません。
ドラマ「半沢直樹」で,部下が明日までに稟議書を作成するのをサポートするために,主人公が妻との結婚記念日のディナーをキャンセルして会社に泊まり込むというエピソードがありました。
しかし,これが人間らしい生き方といえるでしょうか。ましてや,妻との約束も大事な人と人との約束です。無碍に反故にしてよいものではありません。
仕事のために家庭を犠牲にするのは間違っています。
5 労働相談は専門の弁護士に
今日,長い不況の影響で労働事件は,ますます増えています。労働のことはお気軽に弁護士にご相談ください。
労働相談は,弁護士の中でも,我々青年法律家協会や労働弁護団,過労死弁護団,ブラック企業弁護団に所属している弁護士をおすすめします。これらの団体は,労働者の権利擁護に関心がある弁護士で構成されているからです。