次期戦闘機の輸出解禁について法律家として思うこと(2024.5.9 山本 勝敏会員)
第1 次期戦闘機の第三国への輸出を解禁する岸田閣議決定
岸田内閣は、本年3月26日の国家安全保障会議で、武器輸出を制限している防衛装備移転三原則の運用指針を改定して、英伊両国と国際共同開発中の次期戦闘機の第三国への輸出を解禁する閣議決定を行いました。
第2 武器輸出に関して定着していた政府見解
1 日本国憲法は、侵略戦争を反省して、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こらないようにすることを決意し、恒久の平和を念願して平和主義を採用しました。
2 憲法の平和主義に基づいて国会審議を積み上げる中で、平和国家の立場から、国際紛争を助長することを避けるために、わが国は国際紛争の当事国には武器輸出を認めず、それ以外の国・地域に対しても憲法の精神に則ってこれを慎むとする武器輸出三原則が1976年2月までに定着しました。
第3 武器輸出三原則がいつの間にか防衛装備移転三原則となり、今回の閣議決定へと変化
1 武器輸出三原則は、2014年4月、第二次安倍内閣で、国会審議もないままに閣議決定により、新しい原則を定めることが現実的であるとして、平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合やわが国の安全保障に資する場合には外国に対して防衛装備移転を認める方針に変更されました。ただし、防衛装備移転三原則に変更後も、殺傷武器の輸出は共同開発の相手国に限定しました。
2 この度の岸田内閣閣議決定は、第二次安倍内閣閣議決定を踏み超えて、国会審議もないままに、殺傷能力のある武器の最たるものである戦闘機を共同開発国以外の国にも輸出することを認めたものです。
第4 法律家から見て何が問題なのか
1 外務省の説明によれば、わが国の平和国家理念は、専守防衛、国際紛争助長の回避、国際の平和・安定への積極的貢献とされており、武器輸出三原則は国際紛争助長の回避のための取り組みとされています。
2 平和憲法のもとで定着していた武器輸出三原則は憲法に規定されているわけではなく法律でもありませんが、日本国憲法が拠って立つ平和主義を具体化したものとして、国会審議を通して確立された単なる政策を超えた規範であり、国会審議も経ずに政府の閣議決定によってその内容を変更できるものではありません。
3 第二次安倍内閣は、憲法規範として専守防衛の範囲内に限定されていた自衛権行使を部分的集団的自衛権行使へと閣議決定で拡大しその後立法化し、規範化されていた武器輸出三原則についても国会審議もなしに防衛装備移転三原則に変更しました。岸田内閣も、昨年12月に憲法規範である専守防衛の範囲を超える敵基地攻撃能力保有を国会審議を経ずに閣議決定し、今回は、わが国平和国家理念として規範化された国際紛争助長の回避を一層放棄して、最たる殺傷兵器である戦闘機の第三国への輸出解禁を閣議決定したのです。
第5 平和主義・立憲主義・三権分立違反、武器商人国家への転落
1 第二次安倍内閣による武器輸出三原則の変更、岸田内閣による殺傷兵器の第三国への輸出解禁はわが国の平和国家理念及びそれを規範化した武器輸出禁止に抵触し憲法の平和主義、立憲主義に違反すると考えます。
2 また、第二次安倍内閣及び岸田内閣は行政機関に過ぎず、日本国憲法の平和理念が規範化された武器輸出三原則を改めるのであれば国会審議を経る必要があります。国会審議を経ずに閣議決定により武器輸出を可能にしたことは憲法の統治原理である三権分立に明らかに違反します。
3 加えて、この度の岸田内閣による閣議決定は、殺傷兵器の最たるものである戦闘機の第三国への輸出を解禁するものであり、平和国家を武器商人国家に転落させるものであって断じて許されないと考えます。