外国籍調停委員等の採用拒否について(2023.7.5 武田 諒会員)
第1 採用拒否の現状
離婚等の家事事件やあらゆる民事事件を話し合いによって解決する制度として、裁判所の「調停」制度があります。調停委員は、調停の中で当事者の間に入り、両者の主張を聞き、それを整理しながら両者の言い分を調整し、合意形成に助力する役割を担っています。
もちろん経験や専門性を有する弁護士も、多数調停委員として採用されています。
しかし、2003年に兵庫県弁護士会が家事調停委員に推薦した韓国籍の弁護士の採用拒否を機に、全国で日本国籍がないことを理由に外国籍の弁護士が調停委員のほか司法委員(簡易裁判所での民事訴訟期日に立ち会い、裁判官に参考意見を述べ、当事者への説明や調整も行う役割)や参与員(家庭裁判所での離婚訴訟期日に立ち会い、裁判官に参考意見を述べる役割)になることを拒否されています。
しかしながら、外国籍の者であっても、調停委員等に相応しい能力や人柄を兼ね備えている者は多数います。
憲法14条1項は法の下の「平等」を保障しています。ここでいう「平等」は、同一事情や条件の下では均等に取り扱うことを要請する一方で、各人の性別、財産など事実上の差異に基づき異なる取り扱いをすることを認める相対的平等を意味します。その結果、憲法14条1項の要請は、「事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨」です(最判昭和48年4月4日)。そして、以下のとおり、日本国籍がないというだけで採用拒否をすることは、国籍による不合理な差別といえます。
第2 採用を拒否する最高裁判所の見解
1 見解の概要
最高裁判所は、外国籍弁護士の採用を拒否する理由として、①調停委員が調停委員会の構成員としてその決議に参加すること、②調停調書の記載が確定判決と同一の効力を有すること、③調停委員会の呼出、命令、措置には過料の制裁があること、④調停委員会は事実の調査及び必要と認める証拠調べを行う権限等を有していること、などを根拠に、調停委員が公権力の行使(国民の権利義務に影響を与える行為)または国家意思(政策等)の形成への参画にたずさわる公務員に該当すると説明しています。
これは、後述する「当然の法理」の考え方に基づいていると考えられます。
2 当然の法理
この法理は、戦後の1952年、在日朝鮮人が日本国籍を喪失したことを契機として生まれました。すなわち、日本国籍を喪失した在日朝鮮人の公務員としての地位が問題となり、内閣法制局が「一般にわが国籍の保有が我が国の公務員の就任に必要とされる能力要件である旨の法の明文が存在するわけではないが、公務員に関する当然の法理として、公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とするものと解すべきであり、他方においてそれ以外の公務員となるためには日本国籍を必要としないと解せられる」との見解を出したことから、「当然の法理」が形成されました。
第3 最高裁判所の見解は不当であること
1 法治主義に反すること
日本は、法治国家であるため、調停委員となるべき者の選定手続などの行政の活動は、法律に基づいて行わなければなりません(法治主義)。しかし、外国籍の調停委員等の採用を認めないとする法律上の根拠は存在しないにもかかわらず、外国籍の調停員の採用拒否が行われているため、法治主義に反します。
2 最高裁判所の見解には理由がないこと
調停委員や司法委員は、当事者の合意をあっせんし、解決を導くことを職業内容とするものであり、また参与委員は裁判官に意見具申することを職業内容とするものであり、いずれも当事者に対する強制的作用はありません。
調停調書は確定判決と同一の効力を有するものの、その効力は当事者の合意に基づくものであって、調停委員が一方的に権利を制限しているわけでもありません。
また、調停委員会の呼出等には過料の制裁があるものの、過料は裁判所が決定するものであって、調停委員あるいは調停委員会が決定することはできません。
さらに調停委員は事実調査や証拠調べの権限を有しているが、事実調査は強制力を有しておらず、証拠調べにおいても現実には強制的な権限行使が想定されているわけでもありません。なお、司法委員や参与員には、過料や事実調査、証拠調べの規定はありません。
以上のことからすれば、調停委員等が「公権力の行使」もしくは「国家意思の形成への参画」する者にはあたらないため、上記最高裁判所の見解には理由がありません。
3 以前には外国籍の調停員が存在していたこと
2003年の韓国籍の調停委員の採用拒否以前には、外国籍の弁護士が民事調停委員として任命されていた先例があります。実際にその弁護士は、1974年から1988年まで調停委員として活躍され、大阪地方裁判所から長年の功績に対し表彰状を授与されています。
1974年よりも以前から「当然の法理」の見解は既に出されていたのであるから、2003年になって突然採用を拒否することは、従前の例との一貫性を欠きます。
4 国連人種差別撤廃委員会から是正勧告を受けていること
同委員会は日本政府に対し、調停処理を行う候補者として推薦された能力のある日本国籍を持たない者が家庭裁判所で活動できるように、締結国の立場を見直すことを勧告しています。
また、外国籍の長期在留者につき公権力の行使又は公の意思の形成への参画にたずさわる公職へのアクセスを認めることに関しても勧告しています。
以上のとおり、最高裁判所の方針には、国際社会からも懸念が示されています。
第4 結語
このような採用拒否は「公権力の行使または国家意思の形成への参画」との抽象的な基準に基づくものであって、調停委員などの具体的な職務内容を問題とすることなく日本国籍の有無のみによって判断されています。このような採用拒否には、「第3」でも述べたとおり、「事柄の性質に即応した合理的な根拠」とはいえないことは明らかである。そのため、採用拒否は、不当な差別に該当します。
憲法が国際協調主義に立脚していることや人権の国際化が進んでいる傾向からすれば、権利の性質上可能な限り憲法の人権規定はすべて外国人にも保障されています。そのため、合理的理由がない以上、外国籍の調停委員等の採用を認めるべきです。
私は、合理的理由がない外国籍の調停委員等の採用拒否は許されないと考えます。