酒類提供の自由に対する違法な制限(2021.10.1 呉 裕麻会員)
9月末日をもってすべての緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除された。そのため、インフルエンザ特別措置法(以下「特措法」という。)に基づく休業要請、時短要請は同日をもって終了し、以後は完全に自由な生活ないし制限のない生活に戻るのが本来である。当然、飲食店は何らの制限もなく酒類の提供が可能となる。
ところが東京都を始めとしていくつかの自治体は酒類の提供を可能とするためのいくつかの条件を課し、あたかも10月1日以降も酒類の提供が自治体による「許可制」であり、許可がないと提供することが「違法」かの如く扱いをしている。
この点、緊急事態宣言下では、飲食店に対して時短要請・休業要請(特措法45条2項)、時短命令・休業命令(特措法45条3項)が可能であり、命令違反に対しては30万円以下の過料の制裁があった(特措法79条)。
また、まん延防止等重点措置下では時短要請、時短命令が可能であり(特措法31条の6第3項)、命令違反に対しては20万円以下の過料の制裁があった(特措法80条1号)。
これら措置が営業の自由という憲法上の人権の制限であることから、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の適用下に限り、自治体において取り得る措置とその効果が限定的かつ明確に定められている。その反対解釈として、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置のない場面では、自治体が飲食店に対して時短要請や命令、休業要請や命令を行うことができないのは当然であるし、酒類の提供のための要件を課することも許されない。
それにもかかわらず、「リバウンド防止」を大義名分に東京都を始めとした複数の自治体において、酒類の提供のためには条件や許可が必要であるかの如く措置をとり、このことについてNHKを始めとした多くの報道機関が何らの問題意識も持たずに自治体発表をそのまま公表していることに大きな危惧を覚える。
この点、特措法24条9項に基づく「要請」が可能であり、この度の自治体の措置は同項に根拠があると主張する者もあるようである。
しかし、同項は、新型コロナウイルスの対策の実施に関する必要な協力の要請をすることができるだけであり、酒類の提供を許可制のように制限できるものではない。酒類の提供を制限するには明確な根拠規定が必要であることは明らかである。
立憲主義を採用する日本においては、個人の自由が最大限に尊重され、これを制限するには法律上の明確な根拠が必要である。それが新型コロナウイルスの蔓延防止のためという建前で、法の根拠なきままに権力の横暴が続いているように思う。
私は、新型コロナウイルスの蔓延防止をしなくて良いと述べるものではなく、防止措置をとるためには法律の根拠が必要だと述べたいのである。しかし、この度の東京都を始めとした自治体の措置には法律上の根拠がない。そのことに対して報道機関や国民が気付き、問題点を指摘しないことには権力に対する歯止めはかからず、これから先、飲食店に限らずあらゆる場面で国民の自由な生活は守られなくなるだろう。
その意味でこの度の自治体の酒類提供制限は大きな問題であると強く指摘しておく。また、東京都を始めとした自治体において、法律に基づく行政の原理を再認識するよう求める。さらにはNHKを始めとした各報道機関が、行政に対するチェック機能をきちんと果たすよう求める。