コロナ禍における学習権の侵害について(2021.7.20 河田 布香会員)
1 コロナ禍における小・中学校対応の状況
昨年2月27日、政府は、全国の小・中学校に対し、臨時休校要請を行った。各地方はこれを受け、翌日以降続々と臨時休校を決定した。同年4月7日には、緊急事態宣言を発令するとともに期間の延長も行われ、多くの学校で6月になるまで休校措置は続いた。
2 失われた学びの場
子どもは、憲法26条1項に基づき、一人の人間として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有する。特に、自ら学習することのできない子どもは、その学習欲求を充足するための教育を自己に施すことを大人一般に対して要求する権利を有すると解される。
そして、ここでいう学習とは、単に知識を得ることのみを指すものではない。子どもは、家族以外の他者との交流や、成功と失敗を含む様々な経験等を通じ、自分自身を作り上げていくのであり、それも学習の一内容である。義務教育課程における学校は、そうした場の提供として、重要な価値を有する。すなわち、学校とは教科書的な知識を得るためのみならず、自身の成長のための刺激を得るための場である。
しかし、国は、地方の実情を踏まえず、全国に対して一斉に休校要請を行った。また、各地方公共団体は、各地方の感染状況等に照らした休校の必要性を十分に検討しないまま、一律に当該要請に従う判断をしたものである。結果、休校の必要性が無いか、又は極めて低いにもかかわらず、安易に休校措置をとった地方は少なくなく、当該地方の子供らは学校という学習の場を奪われ、学習権が侵害された。
なお、学校が長期間休校することに伴う不利益は、学習権の侵害のみに留まらない。親の負担の増大や、教師の労働環境の悪化なども多分に懸念された。これらは、子どもに対する虐待リスクを高めたり、また子どもに接する大人の余裕がなくなることで、子どもの精神面に悪影響を及ぼしうるものである。その因果関係に関しては別途の検討が必要であるが、2020年度の児童虐待通告件数・検挙件数はいずれも2019年度を上回るとともに、過去最多である。
3 岡山における対応
なお、岡山県の場合、臨時休校要請が出された昨年2月27日時点で、新型コロナウィルス感染者は一名も確認されていなかった。また、以後の各月の感染者累計数であるが、3月で4人、4月で18人、5月で2人、6月で1人である。また、その大半が岡山市在住者の感染である。
この状況で、岡山県全域において休校要請に従う必要性がどの程度あったのか、疑問を抱かざるを得ない。
2021年5月には、岡山県では二度目の緊急事態宣言が発令された。その感染者数は一日で100人を超える日もしばしばであるが、小中学校は休校していない。休校要請が出された当時、未だ新型コロナウィルスの詳細が明確でなかったことを差し引いても、昨年の国の休校要請及びこれに応じるという対応が不相当なものであったことは明らかである。
4 結論
子どもには参政権もなく、また心身ともに未熟であるゆえ、自らの権利が侵害されたことについて声を挙げることも困難である。誤解を恐れず言うなら、子どもは軽んじられやすい。
コロナ禍はまだ続く。以後、安易に学習権の侵害が行われないよう、市民一人一人が高い意識を持つとともに、国及び地方公共団体においては慎重な判断を行うべきである。