非弁提携と弁護士の使命(2020.12.14 岡邑 祐樹会員)
2020年6月24日に東京ミネルヴァ法律事務所が東京地裁から破産開始決定を受けました。その負債は51億円といわれており,弁護士法人の倒産としては過去最大です。
同法律事務所ではいわゆる非弁提携の状態にあったとの報道がなされています(たとえば週刊新潮2020年7月9日号128ページ)。元武富士の従業員が実質的に同法律事務所のテナント,財務及び人事の多くの割合を握っていたと報じられています。
ところで,非弁提携はどうしていけないのでしょうか。
「解説弁護士職務基本規程(第三版)」には,非弁提携を禁止する趣旨について無資格者と提携することによって無資格者をはびこらせその暗躍を助長することを禁止し,弁護士の職務の公正と品位を保持しようとする趣旨とあります。このことは当然なことです。
ただ,上記法律事務所の件では,結局のところ法律事務所を実質的に支配した無資格者にヒト・モノ・カネをすべて握られ,代表弁護士は,もはや弁護士として活動できなくなっていました。昔の非弁提携は依頼者を食い物にしていたイメージでしたが,現在は弁護士も食い物にするイメージです(深澤諭史「本当に怖い非弁提携」非弁フロンティア2017年10月号30ページ)。そうすると,非弁提携は,単に無資格者がはびこるというだけでなく,弁護士が独立して活動できなくなり,いつしか,横領などの非行に手を染めてしまうということに本質があるのかもしれません。
このようなことが起こる背景には司法制度改革があると思います。司法制度改革によって,弁護士は大幅に増員されましたが,事件数はむしろ減っており,弁護士1人あたりの所得も減りました。その結果,弁護士は金銭的な余裕がなくなり,また,広告の自由化や弁護士法人設立が可能になったことや,新自由主義的な発想に基づき,弁護士を単なるビジネスととらえ,どうすれば,労少なくして金が儲かるかということばかり考える者も現れ,弁護士の本来の使命である「基本的人権の擁護」や「社会正義の実現」を軽視する風潮も出てきました。
無論,収入を得ることも生活の基盤として重要なことです。しかし,金を稼ぐことのみを追求し,本来の弁護士の使命を忘れてしまっては本末転倒です。
弁護士会も弁護士の地位向上・待遇改善などを目指すのはもちろんですが,「基本的人権の擁護」や「社会正義の実現」を最優先課題にしなければなりません。そうであるからこそ,国家権力とも闘えるように弁護士会は自治権を与えられているのであり,単に弁護士の地位向上・待遇改善のみを目指せば,弁護士会は単なる圧力団体と堕してしまいます。
最後に,最近の若手弁護士の独立の挨拶状では,「基本的人権の擁護」や「社会正義の実現」という言葉を目にすることが少なくなりました。私は,来年1月に独立しますが,青法協の一会員として,初心を忘れず襟を正し,「基本的人権の擁護」と「社会正義の実現」を忘れずにいたいと思います。