パイロットの飲酒問題を考える(2019.10.10 呉 裕麻会員)
今年10月8日にも、パイロットの飲酒問題が頻発する日本航空に対し、国交省が航空法に基づく事業改善命令を出す方針との内容の報道がありました。
国交省は航空各社で昨年、パイロットらの飲酒問題が相次いで発覚したことを受け、航空会社4社に対し厳重注意を出しました。
また、日本航空については飲酒検査の不正すり抜けなどを理由に悪質性が高いとされ、事業改善命令が出されていました。
日本航空では、同命令を踏まえ、再発防止策などを講じていたものの、今年になってからも同様の飲酒問題が絶えないことからこの度の事業改善命令に至ったとのことです。
さて、航空法70条では、「航空機乗組員は、アルコール又は薬物の影響により航空機の正常な運航ができないおそれがある間は、その航空業務を行つてはならない。」と定められているところ、具体的に禁止されるアルコール濃度は、パイロットについて呼気中0.09mg/ℓ以上との基準が国交省によって今年1月31日に定められました。
この基準は、道交法で定められる酒気帯び運転の基準が呼気中0.15mg/ℓ以上とされていることと比較すると厳しい基準となっています。
言うまでもなく、航空機は多くの乗客や貨物を長距離に渡り運ぶものであること、一度出発すると途中でパイロットの交代なども困難であることも踏まえ、このような厳しい基準が定められたものといえます。
当然、パイロットとしては、このような航空法やこれに基づく国の基準に従うべきですし、ましてや飲酒検査を不正にすり抜けることなど言語道断と言わざるを得ません。
ただ、これまでの報道を見ていて私が感じることは、飲酒問題を起こしたパイロット側の言い分についてまったく明らかにされていない点です。
パイロットの側には何らの言い分もないのでしょうか。どうしてこれだけの厳しい基準があることを知りつつ、このような飲酒問題に至ってしまうのでしょうか。そもそものパイロットの運航と休養、その次の勤務とのインターバルはしっかりと会社が確保してくれているのでしょうか。
今や世界的にパイロット不足は深刻だと言います。そうした中、過密なスケジュールでの運航を強行する他ない立場に置かれ、運行後の疲れた体を強制的に休める手段として飲酒に頼らざるを得ないパイロットもいるのではないでしょうか。
そのような観点からの見直しがない限り、単に飲酒検査を厳しくするとか、飲酒基準を厳しくするとかといった表面的な改善だけでは問題の抜本的解決に至らないと思います。
航空機の安全安心な運航のためには、パイロットの労働者としての地位もまたしっかりと守られている必要があるのではないかと感じます。