南スーダン派遣施設隊の日報問題(2017.10.30 森岡 佑貴会員)
1 はじめに
先般、安倍首相は平成29年9月28日招集の臨時国会冒頭において衆議院を解散しました。此度の解散については重要法案の審理棚上げという問題もありますが、それらはひとまず措くとして、今回は前回のコラム(コラム27)に引き続き、南スーダンに派遣されていた派遣施設隊の日報問題について憲法66条2項のシビリアンコントロールや憲法9条との関係で改めて取り上げてみたいと思います。
2 事実経過
先のコラム(コラム27)でも触れたとおり、平成28年7月に南スーダン・ジュバにおいて大規模な戦闘がありました。この当時の防衛省の状況について、同年9月末、とあるジャーナリストが当時の南スーダンに派遣されていた施設隊が現地で当時作成した業務日報について情報公開請求を行いました。これに対して、2カ月以上経過した同年12月上旬、防衛省から既に廃棄したから不存在との回答がありました。このことを受け、自民党の河野太郎衆議院議員らが再調査を求めたところ、同月16日、稲田元防衛大臣が再調査を指示し、平成29年3月15日、当時の業務日報があったことが報道されました。翌日の衆議院安全保障委員会において、民進党・今井雅人議員がこの点について質疑を行ったところ、稲田元防衛大臣は当時の業務日報が存在していたことについて「報告されなかった」と答弁しました。その後、稲田防衛大臣は特別防衛監察の実施を指示しました。そして、同監察の結果は7月28日、明らかになりました。
3 特別防衛監察の結果概要
(1) 平成28年7月19日付の開示請求・同10月3日付開示請求について
本結果は、7月の開示請求に対してはCRF(中央即応集団 Central Readiness
Force)の副司令官が、10月の開示請求に対して陸幕及びCRF司令部関係職員が、文書が存在することを確認しつつ、文書不存在につき不開示とし、当該文書を開示しなかったこと自体は不適切とした上で、陸幕及び統幕関係職員が日報の存在を認識できる状況であったにもかかわらず、文書不存在として不開示手続を実施したことは適切ではなかったと述べています。
(2)その後の対応
その後、16年12月、掲示板から日報を破棄し、上記回答に実態を合わせるようにしたこと、日報にかかる防衛相への報告の遅れ事実関係と異なる対外説明資料を作成したことなどについて防衛省の対応が不適切であったと評価しました。
(3)結論
以上を踏まえた上、改善策として3点の改善策を述べた上、各種業務における適正性の確保に万全を期すべきであると結んでいます。
4 その後の動き
そして、防衛省は特別防衛監察の結果を受け、日報の非公表に関わった事務次官や陸上幕僚長など幹部5名を抵触や減給の懲戒処分としました。また、稲田元防衛大臣も辞任をしました。
5 シビリアンコントロールの問題
今回、3月16日、当時の防衛相である稲田氏は、当時の業務日報が存在していたことについて報告されなかったと答弁しているが、この答弁は大きな問題を孕んでいます。
憲法66条2項は「内閣総理大臣その他国務大臣は、文民でなければならない」と規定しています。これは、軍人が独走し、戦争などの惨禍を繰り返さないよう抑制をかけるために規定されたものです。
通常、自衛隊については首相や防衛相による指揮が及んでいると言えます。そして、その前提として最も重要なのが、首相や防衛相が適切な報告を受けていることです。適切な報告がなければ適切な統制は行い得ません。今回の日報問題では、平成28年12月2日、防衛省として、文書不存在につき不開示とする決定をした段階で、防衛大臣の決裁は受けていませんでした。つまり、防衛省として不適切な対応をした際、防衛大臣は何ら報告を受けておらず、文民である防衛大臣による適切な指揮が行われていなかったということが分かります。
もっとも、こうした大きな問題を孕む故に、稲田元防衛大臣は早期に報告を受けていた可能性は否定できません(その場合には、隠蔽について黙認していたのではないかといった別の問題は残ります)。
6 終わりに
今回の問題については防衛省の幹部を懲戒処分とし、稲田元防衛大臣が辞任したことを受けて、事態が収束してしまったようにも思えますが、シビリアンコントロールの問題或いは日報について隠蔽の疑いなど、国会の場で十分に今回の日報問題について検証することが必要であったように思われます。
また、今回、不開示とされていた日報には「戦闘」という言葉が多用されており、当時の南スーダンでは「戦闘行為」が行われていたことが日報から窺えます。
このことは、先のコラムでも触れたとおり、南スーダンへの駆けつけ警護が改正PKO協力法によっても正当化し得ない「武力の行使」にあたり、憲法9条1項に反する違憲なものであったことも窺わせます。
今回の日報問題を受けて、再度、駆けつけ警護の問題を認識してもらいたいと思います。