「年金裁判岡山訴訟」の経過と支援のお願い(2016.9.1 古謝 愛彦会員)
1 現在,全国の裁判所で,年金引き下げ違憲訴訟が係属しています。
2016年8月21日現在,42都道府県,39地裁,計4417名もの原告が提訴しており,ここ岡山でも,2015年5月29日,56名が第一次提訴を行い,2016年9月には第二次提訴が予定されています。
岡山弁護団(団長 則武透会員)5人のうち,4人が青法協岡山支部会員です。年金受給者という,社会的弱者の権利救済のために,奔走しており,まさに,「青法協」が担うべき事件であるといえます。
2 ここで,年金裁判について,簡単に事件の概要を紹介したいと思います。
第一次提訴では,2013年10月から実施された,「特例水準の解消」を理由とした年金額1%減額が,以下のとおり,憲法25条,憲法13条,憲法29条1項に違反するし,裁量権の逸脱濫用にあたり違法である,と主張しています。
【憲法25条違反】
・国は「最低保障年金制度」の確立など,老後において健康で文化的な人間らしい最低限度の生活を保障するための制度を確立する義務を負っているにもかかわらず,様々な口実をもうけてこれを怠ってきた。そのため,わが国の年金支給額は,「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するにはほど遠い水準にある。
・生活保護水準に満たない年金受給者も多数存在
・デフレ下の「物価スライド」で,年金額減額
・「特例水準の解消」を理由にさらに減額
⇒「健康で文化的な最低限度の生活」以下の年金水準を一層低下させ,年金受給者の生活を破壊するもの
⇒憲法25条違反!
【憲法13条,憲法29条1項違反】
・物価下落局面では,「特例水準」解消は想定されていなかった。
⇒それにもかかわらず,物価下落の局面で「特例水準」を解消し,老後の生活を破壊したのであるから,個人の尊厳と幸福追求権を定めた憲法13条違反!
・年金受給権は憲法29条で認められた財産権
・物価下落の局面で「特例水準」を解消することは,特例法の内容に反する。
・マクロ経済スライド(後述)発動のための「特例水準」解消は不当な目的
⇒以上より,年金減額の合理的理由はなく,憲法29条1項違反!
【裁量権の逸脱濫用】
・①低所得高齢者への激変緩和措置としての年金生活者給付金法②「特例水準」解消についての丁寧な周知③物価高傾向(アベノミクス)④必要以上の過大な年金減額がすでに行われていたこと
⇒以上を全く考慮せずに年金減額を強行したのであるから,裁量権逸脱!
3 2016年9月提訴予定の第二次提訴では,2015年4月から実施されている「マクロ経済スライド」の違憲性を正面から争うことになります。
「マクロ経済スライド」とは,物価水準や賃金水準の上昇よりも低い水準でしか年金額を増やさない仕組み,すなわち,年金の実質的価値を毎年下げていく制度です。
国は「世代間公平」というもっともらしい理由を出しながら,年金額を減額し続けています。年金受給者にとって,ほぼ唯一の収入は年金収入です。その実質的価値を自動的に下げる「マクロ経済スライド」は,生存権を侵害し,憲法25条に違反する!と,主張していきます。
4 この裁判は,年金受給者のためだけの裁判ではありません。国任せにせず,より良い年金制度を次の世代に残すための,政策形成訴訟でもあります。
ぜひ,一人でも多くの方に,年金裁判を知っていただき,ご支援いただけましたら幸いです。