三菱自動車による燃費不正問題について(2016.5.14 呉 裕麻会員)
三菱自動車が生産する自動車につき、燃費を偽装していたことが明らかとなった。燃費測定の前提となる抵抗値を、法で定められた以外の測定方法により測定し、また、そもそも一部車種では、抵抗値の測定すら実施していなかったとのことである。
現時点では、不正内容のすべてが完全に明らかになったとはいえないが、この不正問題を受け、三菱自動車水島工場の一部生産ラインが稼働を停止した。そのため、関連する下請け企業も受注が停まり、生産を一部停止している企業もあるとのことである。
水島工場の従業員のうち約1300人は自宅待機を命じられており、雇用の先行きも不透明である。
当然、株価も暴落し、不正の対象となった車種の中古車市場価格も下落した。
今後、下請け中小企業の資金繰りや倒産、破産の問題、従業員の雇用問題など様々な法的問題が生じることが予想される。
その中でも、三菱自動車やその関連企業の従業員の雇用に関しては、生産停止に伴う賃金カットや整理解雇が行われることが予想される。賃金カットについてはすでに、三菱自動車から労働組合に提示があり、今後はその提示内容を踏まえて労使で妥協点を見いだせるのかどうかが焦点となる。
しかし、民法の債権者主義(536条2項)の規定に照らせば、この度の不正が「債権者の責めに帰すべき事由」に該当することは明らかで、そうすると従業員は、本来は100%全額の賃金を受け取る権利があることとなる。三菱自動車としては、このような責任をきちんと自覚し、その上で従業員に対する賃金補償を誠実に行って欲しいと思う。
さらに、今後予想される整理解雇については、従前議論されている整理解雇4要件の形式的な適用は許されないのではないかと考える。というのも、整理解雇4要件で最初に検討される「人員削減の必要性」であるが、この度、生産が停止せざるを得なくなったのは三菱自動車の不正が原因であり、自らの不正を理由に人員削減の必要性を主張するのはあまりにも信義にもとるからである。
そして、そのように解釈しないことには、自ら不正をしておきながら不正が発覚するまでは利益を上げ、いざ不正が発覚するや人員削減の必要性があるとして整理解雇が認められることとなり、不正を働いた企業の「やり得」を許すこととなるからである。
雇用の問題の他にも、下請け企業との関係で、これまで三菱一本で受注してきた企業に対する補償も逃れられないと思う。また、個別の消費者や株主、販売店などこの度の不正による被害のすそ野は極めて広い。
三菱自動車は、自ら招いた結果を正面から受け止め、大企業としての責任を自覚し、あらゆる手段を尽くし、完全なる補償をすべきである。