TPPは亡国の条約(2016.4.15 清水 善朗会員)
国会で環太平洋連携協定を承認するかどうかの審理が始まりましたが,初っぱなからあきれかえってしまった。民進党議員からの交渉過程の記録開示請求に対して,政府が開示した交渉経過を記録した45枚の書類は,表題と日付けを除いて黒塗りされていたのです。交渉の結果協定締結にいたったわけですが,交渉の経緯を検証することなくして交渉結果である協定内容が妥当なものかどうか,またきちんと議論したうえで締結にいたったかどうか判断することはできません。憲法は国民の代表である国会に政府の行為をチェックする役割を与えているのですが,これでは国会が責任を果たすことはできません。
開示を求める議員に対して,安倍首相は「交渉して妥結した結果が全てだ。結果にいたる過程がすぐ表に出るなら,外交交渉は成立しない」と反論したとのことです。安保法案が国会で審議されている時,国民に説明して理解を得ると口先ではいいながらきちんとした説明をせず,成立後に国民の理解を得られているとはいえないから今後も説明を続けるといいながら,臨時国会の開催要求を拒否するといったごまかしを続けてきた安倍首相だから,国会や国民を無視する発言には一貫性があるといえばそうだが,黙っているわけにはいきません。
以上は,TPPの手続面での問題ですが,その内容にも大きな問題があります。
まっとうな国は,食べ物を安全保障政策として位置付けています。当然でしょう。誰だってものを食べなければ生きていけないのだから。第一に食料の自給です。トウモロコシをバイオマスとして利用したため価格高騰をまねき,その結果飢えが生じたことは記憶に新しい。先進国の多くが食料を自給しているのに対して,我が国のそれはカロリーベースで40%を切っている。アメリカやカナダ,オーストラリアなどで凶作が起こればたちまち私たちは食べ物に窮することになる。非関税障壁を取っ払えば,我が国の食料自給率が下がることは目に見えている。安全の問題も同じ。我が国で使用を禁止している農薬を使用した食料の輸入を制限することや,表示を義務付けることが非関税障壁にあたるとして攻撃されかねないのだ。
外国から安い食べ物が入ってくると浮かれているわけにはいかない。
問題は食料だけではない。
問題を抱えながらも,我が国は国民皆保険制度により,誰もが保険を使って医療を受けることができる仕組みになっている。しかし,この制度は国外の保険会社が我が国の市場に参入するうえでは障害になる。非関税障壁として国民皆保険制度が攻撃の対象とされる可能性もある。似たようなことはすでに起こっている。例えば,郵政民営化。郵便貯金として蓄積されている資産を民間が利用できるようにするため,アメリカからの要求もあって強行された。
TPPを巡ってジェネリック薬品の利用制限が問題となっている。特許期間が経過した医薬品を同じ技術を使って安価に製造するのがジェネリック薬品だが,TPPを巡る交渉においてアメリカは医薬品の特許期間の延長を求めた。特許期間を延長すればその期間はジェネリック医薬品を製造できない。特許期間延長がなぜ非関税障壁を無くすことになるのか。薬品の流通を妨げるのだから,障壁を高くすることになるのではないか。
この医薬品問題から,結局TPPが多国籍企業の利益を最優先するための制度に過ぎないことが見えてくる。
極めつけはISDS条項。ISDS条項というのは,Investor(投資家)-State
(国家)Dispute(紛争)Settlement(解決)の頭文字を並べたもので,投資家が国家を相手に紛争解決を求める制度を定めた条項のことです。例えば,アメリカのモンサント社が製造しているある農薬にについて,我が国が発がん性の恐れがあるとして使用を禁止した場合,モンサント社が損害を被ったとして我が国を訴えるといった事例が考えられる。
国民の健康を守ることは国家の責務であるが,国家主権の侵害になりかねない。
ISDS条項からも,TPPが多国籍企業の利益を最優先する仕組みであることを見て取ることができる。
最後に,自民党北海道連が2012年の総選挙の際に配付した比例ブロック選挙広報の写真を載せます。「私たちの暮らしを脅かす「TPP」を断固阻止する!」と公約していた。