労働法改悪の意味(2015.6.1 呉 裕麻会員)
今国会に、労働基準法の改正案、労働者派遣法の改正案が提出されています。
労基法の改正案の一つは、高度プロフェッショナル制度の導入です。これは、該当する労働者について、労働時間規制を一切外そうとするものです。建前上の導入理由は、高度の専門知識を必要とする職種については、時間ではなく、成果によって働くことがふさわしい、としています。
しかし、本音は、手間のかかる労働時間管理を外し、無制限に労働者を働かせ、利益のみを搾取したい点にあることは明らかです。
同制度は、従前、「ホワイトカラーエグゼンプション」と呼ばれ、導入が目論まれましたが、「残業代ゼロ法案」との世間の反対により実現しませんでした。これを、名称を変えて持ち出したのが今回の高度プロフェッショナル制度です。
この高度プロフェッショナル制度が導入されてしまうと、以下のような問題が生じます。
①何時間働いても働いた時間に応じた賃金をもらえない
②成果で評価することを建前としているが、成果が上がったら賃金があがるとはどこにも書いていない
③労働時間の管理がされないので、万が一、過労死しても労災認定を受けることが極めて困難になる
④将来的にはあらゆる職種について、適用対象となり、あらゆる労働者が常時過労状態に陥る
労基法の改正案のもう一つは、企画業務型裁量労働制の拡大です。これは、現行の企画業務型裁量労働制の範囲を広げることで、単なる管理職や、営業職の従業員にもみなし労働時間の適用を広げようとするものです。
このような改正を認めれば、裁量労働制の適用範囲はかなり広がることとなり、多くの労働者が裁量労働制の名の下に、労働時間の管理がされないこととなるでしょう。
さらに、派遣法の改正案は、以下のように多くの点を改正しようとしており、派遣労働者のみならず、正規労働者の労働条件を切り下げる契機となりかねません。
①専門26業務の区分撤廃
②無期雇用派遣労働者の派遣可能期間からの除外
③派遣可能期間を3年に延長
④派遣可能期間を容易に延長できる
今回の改正案では、派遣可能期間を3年にした上で、3年経過前に労働組合もしくは労働者の過半数代表の「意見聴取」のみで更新を可能としています。
これでは使用者は、必要に応じて延々と派遣を使い続けることが可能となってしまいます。派遣を延々と使い続けることができるようになると、正規労働者の仕事はどんどん派遣にさせるようになり、正規労働者の解雇が進むこともあり得ます。
そうなると、残された少ない正規労働者には、派遣労働者に任せられない業務が集中し、過剰な業務上の負荷がかかることとなり、残業の常態化が進むと思われます。
最悪の場合には、上記の高度プロフェッショナル制度の導入や企画業務型裁量労働制の拡充とのセットにより、派遣労働者は延々と派遣で働き、これを管理する正規労働者は、労働時間管理もないまま、残業代も支払われずに働かされ続ける事態に陥りかねないこととなります。
最後になりますが、今回の労基法改正案、派遣法改正案は、一部の労働者のみをターゲットに労働条件の切り下げを狙うものではありません。年収の高い労働者については高度プロフェッショナル制度により、中間層の労働者については裁量労働制の拡大により、年収の低い不安定な労働者については派遣法の改正により、労働条件を切り下げようとするものです。
要するに、あらゆる労働者について、一気に労働条件を切り下げ、経営側の思惑を実現しようとする悪しき法改正と言わざるを得ないのです。